【覆面取材】草津温泉の希少湯

『温泉批評』編集長の現地レポート①

温泉を独自のスタンスで論じる雑誌『温泉批評』の編集長が現地潜入するスペシャル覆面レポート。第1回目は王道の群馬県・草津温泉です。

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 草津に行くというと、「噴火は大丈夫?」といまだに言われることがあるが、本白根山は沈静化して久しく、5月現在での噴火警戒レベルは2(火口周辺規制)で、温泉街はすっかり元の活気を取り戻している(もともと草津温泉は何も心配なかったのだが)。

 天気も上々、『頼朝』の温泉卵を食べながら歩けば、

『頼朝』の温泉卵

 西の河原公園内の足湯だって、平日の昼間だというのにこの賑わい。

西の河原公園内の足湯

 サッパリと人心地が付いたところで、今回の草津のテーマは「希少湯」である。

草津の主要源泉は6つある

 草津温泉が日本有数の酸性泉ということは、温泉ファンならずともご存じだろう。
 その強烈さゆえに、“どこも同じような湯”と思っている人も多いようだが、主要な源泉だけでも6種類ある。なかでもよく使用されているのが、以下の2つ。
 
○万代鉱(ばんだいこう)⋯⋯湧出量が最も多い(毎分6200ℓ)。酸性度が強く(ph1.7)、泉温が高い(95.4℃)。共同湯『御座之湯』『大滝乃湯』『西の河原露天風呂』や各旅館に配湯されている。
○湯畑(ゆばたけ)⋯⋯文字通り温泉街の中心地の湯畑から湧く。毎分4437ℓで、ph2.08、源泉温度55.7℃。硫黄臭がし、肌への当たりが比較的柔らかい。共同湯『千代の湯』や各旅館で使用。

 この他の「白旗」「西の河原」「地蔵」「煮川」の各主要源泉も、草津に何度か足を運べば入湯することになるだろう。その源泉の浴感の違いを語るようになれば、いっぱしの草津通というわけだ。

お地蔵様に守られた「地蔵」源泉
お地蔵様に守られた「地蔵」源泉

自家源泉の湯舟に入れる宿は、わずか3つ

 ここからが本題だ。草津に通うようになると、これら主要源泉以外に入りたくなってくるのが、希少源泉。たとえば「わたの湯」源泉は、数件の宿にしか配湯されていない。
 そしてその希少性をさらにつきつめていくと、自家源泉に行き当たる。つまり、“ここでしか入れない湯”というもの。これは実は草津では意外にも珍しく、敷地内に自家源泉を持ち、その源泉のみの湯舟がある宿は、『ての字屋』『泉水館』『草津館』の3つしかない(『一田屋』は廃業)。
 というわけで、今回はその中のひとつ、『泉水館』に潜入ルポを試みた。

『泉水館』

 『泉水館』は西の河原通り沿い、西の河原公園にも湯畑にも行きやすい好立地にある。創業は大正4年という老舗中の老舗で、2016年に100周年を迎えたのを機にリニューアルし、部屋数4の “2万円超えの宿”として生まれ変わった。
 玄関を入ってまず迎えるのは、上品に活けられた春の花。

『泉水館』

 そしてロビーへ。ウッディな造詣で、筆者好みの雰囲気である。床の木はナラ材で、よく見ると表面を薄くくり抜いて凸凹にしてある。これが実に歩きやすく、気持ちいいのだ。この加工を「ちょうな削り」と言うのだそうだ。

ちょうな削り

 階段や廊下の床は麻マットが敷き詰めてあり、これも足裏に心地よい。誰が履いたのかわからないスリッパから解放されるのはいいものだ。かといって裸足で歩くのもいやだなあ⋯⋯という方も、草津では安心してほしい。強酸性の源泉は、足裏の雑菌も水虫も綺麗に殺菌してくれるのだ。
 

 この宿は4部屋ということもあり、若夫婦でほとんど切り盛りしている。ご主人は料理長も兼ねているし、生け花や接客は若女将の仕事。だから、少々気の行き渡らないところもあるのだが、そこは自由気ままと取るか、2万円宿としては気が利かないととるかは、客次第。
 部屋へ入ると、和モダンな色合いが濃くなる。筆者的には、タオル掛けが木製なのがちょっと嬉しかった。布団のころあいもちょうどよい。
 アメニティも十分だが、貴重品入れが部屋にないのと、Wi-fiが自分で登録をしなければならないFREE SPOTというのがちょっと気になった。

 

文化財のような総ヒノキの湯に身をゆだねる

 さてさて、肝心の湯である。リニューアルしているといっても、浴舎と湯舟はほとんどいじっていない。大浴場などはなく、3つの貸切風呂のみだが、そこにはロビーや部屋とはまったく違う異空間が存在していた。
 その前に、階段のところに各浴室の表示灯があって、明かりのついているところは客が入っていると一目でわかるシステム。これはとても便利でよい。

 ふたつの浴場がある浴舎は離れになっていて、数歩外を歩く。建築当時のままの総ヒノキ。文化財にしてもおかしくない風情だ。
 まずは「桐の湯」。ドアを開けると、この下り階段に期待が膨らむ。

「桐の湯」

 そして、湯舟。なんという風格だろうか。これを独り占めできるのである。君子の湯というのは、湯舟の名ではなく源泉名で、すべての湯舟に表示されている。

君子の湯

 湯舟の温度は41℃ほど。「君子の湯」源泉の温度は42.3℃しかなく、草津のなかでもとりわけ温い部類だ。泉質は草津のほとんどの源泉と同様、酸性・含硫黄-アルミニウム-硫酸塩・塩化物泉で、成分はやや少なめ。そんなわけで、他の源泉よりもまろやかに感じられる。だが、面白いのは遊離炭酸の含有量だけが際立って高いこと(285mg)。これも湯が優しく感じられる一因なのだろう。ともかく、すっかりこの湯が気に入ってしまった。

どれも素晴らしい湯舟の個性

 その隣にあるのが、「萩の湯」だ。こちらには湯舟が2つもある。左の小さめのほうが42℃、筆者の入っているほうがぬるめの40℃。草津で40℃というのは、かなり珍しいと思う。君子の湯がさらにまろやかに感じられ、この湯舟が湯質も雰囲気も一番気に入った。
 
「萩の湯」

 もうひとつの浴舎は、5メートルほど先にある。3つのなかで最も光の入る、明るい湯舟「千寿乃湯」だ。浴舎の風情はピカイチで、湯舟のヒノキの組み方もモダンな感じがする。曇りガラスで風景こそ見えないが、不思議な開放感がある。湯温は41℃ほどで、朝風呂に最適な湯舟である。
 

丁寧に造られた食事を半個室で

 そして夕食は、ロビー横の半個室でいただく。

 まずビール⋯⋯と思ってメニューを見ると、生ビールはなく、あるのはスーパードライの中瓶とプレモルの小瓶で、値段は共に600円。プレモルファンとしては、ちょっと納得がいかない料金設定だ。ビール党としては、やはり生ビールやこだわりの地ビールも欲しいところ。日本酒は「谷川岳」「水芭蕉」「赤城山」など地のものが揃えられていて申し分ない。

 食事は小皿が一品ずつ運ばれる。写真左上から順番に、

 小松菜とつぶ貝の辛子醤油/せりと蒟蒻の白和え/水蛸とトマトの黒酢かけ/鰆の炙り・石鯛・メバチ鮪のお造り/あさりと菜の花のスープ/ホタルイカと山菜の天ぷら/かぶら蒸し/紋甲イカの蕗炒め/揚げ出しおこわ/銀鱈の西京焼き/上州牛の漬けロースト/弥生姫のアイスクリーム

 群馬米と赤だし汁、香のものを別にすれば全12品。温かいものは温かく出し、地のものへのこだわりも見られ、ご主人の手作りの労がしのばれるが、味は無難な部類で、いまひとつパンチや驚きを感じられるといいのだが。盛り付けや色使いも地味すぎるのではないか。そのあたりが課題と感じた。
 今夜の最高の一品は、ホタルイカの天ぷら。ホタルイカのまったりした味わいが、てんぷらとよくマッチしていた。

 朝食にはちょっと驚いた。ポテトサラダ、玉子焼き、焼き魚、湯豆腐などなど、実に9品もあるのだ。それぞれ小皿に盛りつけてあるので、盆に乗り切らない。どうにか残さず食べたが、もう少し朝食らしく整理されたものがよいのでは、と感じた。

 翌日も3つの湯舟を堪能し、10時にチェックアウト。一人料金の割り増し分とアルコールの代金も含めて、しめて3万ちょっと。草津ではなかなかの料金となるが、湯舟の素晴らしさと静かでウッディな館内の居心地のよさで、充実度は申し分のないものであった。

 なお、日帰り湯も可能だが、やらない日もあるので事前の確認が必要だ(貸し切り料が1500円と、入浴料が1人500円)。

時間湯という名の独自源泉

 さて、紹介したい独自源泉がもうひとつある。その名も、「時間湯」。
 みんなで湯もみをして、湯長の号令で熱い湯に3分間浸かる、あの草津独特の時間湯だ。かつては6つあったという時間湯だが、現在は2つが残るのみ。
 ひとつは『千代の湯』、もうひとつは『地蔵の湯』である。
 ちょっと草津を知っている人なら、「あれ、千代の湯は万代鉱源泉で、地蔵の湯は地蔵源泉だから、独自源泉じゃないんじゃない?」と言うだろうが、実はそれぞれにある無料の共同湯(男女別)と時間湯の湯舟とは源泉が違うのである。千代の湯時間湯は「熱の湯源泉」、地蔵の湯時間湯は地蔵の湯の分析書が張ってあるが、実際は地蔵の湯源泉のすぐ横にある小源泉を入れているそうだ(ややこしすぎる!?)。
 といっても、地蔵の湯の時間湯は湯長の面接を受けた湯治客のみで、体験入湯はできない。気軽に入れるのは千代の湯のほうだ。というわけで、湯畑から歩いて1分の千代の湯へ。

千代の湯

 時間湯ができるのは、午前9時、11時、午後2時、5時の1日4回(定休日は毎週月曜、第2・4火曜)。入湯料560円を払い、バスタオルを2枚借りて(タオル1とバスタオル2が標準)待合室で水分補給をしながら待っていると、声がかかる。ここでは服のまま湯舟へ。
 左上に神棚が鎮座し、窓から射す陽の光が、アカマツの湯舟を照らしている。実に神々しい風景だ。共同湯の湯舟と違って、2槽式で広い。
 まずは参加者全員で湯もみタイム。湯長の井田剛文さん、鈴木恵美さんの号令とともに、みなで草津節を唄いながらドンブラコ。

千代の湯 湯もみ

 十分に湯がほぐれたところで、待合室に戻って服を脱ぎ、ふたたび湯船へ。タオルを頭に置き、数十回かけ湯をする。これは身体を湯に慣らし、のぼせなどを防ぐ効果がある。

千代の湯

 そして、井田湯長の「したくがよろしければ、ソロソロ下がりましょう」の声と共に、全員ゆっくりと入湯。
 湯温は46℃とのことだったが、思ったより熱くない。源泉自体も少し柔らかさを感じるといわれているが、想像以上で、“3分も我慢できるかな⋯⋯”と不安だったのがウソのようだ。これが湯もみというものなのか。

千代の湯

 1分後、「改正の2分~」と湯長が言うと、全員が「オー!」と返事をする。これが時間湯の決まりだ。士気を上げるとともに、のぼせていないかを見るということでもあるらしい。
 2分後は「限って1分~」「オー!」
 2分30秒経つと「ちっくりご辛抱~」「オー!」
 2分45秒後には「辛抱のしどころ~」「オー!」
 そして3分後、「さあ効きましたらソロソロ上がりましょう」「オー!」これで湯から上がり、湯舟の脇で少々休む。
 脱衣場へ戻ってからも、バスタオルを肩にかけ、じっと汗を出し切る。これが時間湯の流れだ。思ったより優しい浴感だったが、そこはそれ草津の強い源泉である。ぐったりする疲れが押し寄せてきて、ついウトウトしてしまった。

開放的な露天風呂の硫酸塩泉で仕上げを

 さて、草津の強烈な湯を堪能したあとは、やはり仕上げ湯が欲しくなる。
 草津湯治の仕上げ湯といえば、昔から沢渡、川中あたりが挙げられるが、開放的な湯が欲しくなり、尻焼温泉に向かう途中にある京塚温泉『しゃくなげの湯』に決めた。ここも独自源泉、そして露天からの眺めが素晴らしい。

 その前に、腹ごしらえを。京塚温泉からほど近いそば屋『野のや』で、「きのこ三昧そば」と「じゃおうおにぎり」をいただく。そばは温かいつゆのなかにきのこが各種入っており、ばかでかいまいたけの天ぷらが食欲をそそる。まいたけは自家栽培だそうだ。“じゃおう”はふきのとうのことで、すりつぶして味噌と合えている。これがまたうまいのだ。

 そしていよいよ「しゃくなげの湯」へ。
 ここは露天風呂しかない素朴な日帰り湯で、近くの「喜久豆腐店」か「宿くじら屋」で料金(500円)を払い、鍵を借りて自分で開けるというユニークなシステム。もともと地元民のための湯だったのだが、2007年から一般利用できるようになった。

 素朴ではあるが、実に開放感のある露天風呂で、川の向こうの崖上には県道が走っていて、そこから丸見えだ(まあ車を降りて見る人もいないだろうから、あまり気にはならないのだが)。これだけの湯に500円で入れるというのも、実に贅沢な話。分析書の提示はないが、泉質はカルシウム-硫酸塩・塩化物泉とのこと。もちろんこの源泉も他では味わえない。

 スペシャルな自家源泉にこだわった草津旅、いかがだっただろうか。
 貴少湯で伝統を味わい、特別な時間を過ごすのは実に贅沢なひとときである。賑やかな草津もいいが、たまにはこんなゆったり草津を味わうのもオツなものだ。

*『千代の湯』時間湯のみ、許可を取って取材しています。

施設情報
宿名:泉水館
住所:群馬県吾妻郡草津町草津478
URL:http://sensuikan.jp/ 

 

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二之宮 隆

二之宮 隆

『温泉批評』編集長。週刊誌、小説誌を経て『ブラボースキー』『soto』『マイルスを聴け!』『画帖 月百姿』など多数の雑誌・書籍にかかわる。ぬる湯・交互浴を好み、入湯源泉数は1100を超えた。