【覆面取材】中伊豆“滝見温泉” のド迫力[天城荘]

『温泉批評』編集長の現地レポート②

温泉を独自のスタンスで論じる雑誌『温泉批評』の編集長が現地潜入するスペシャル覆面レポート。第2回目は静岡県・大滝温泉です。

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 関東や東海近県エリアに住む者にとって、“海の温泉”といえば伊豆にとどめを刺すのだが、“伊豆=海”ではもちろん、ない。修善寺から天城を越えて河津に抜けていく中伊豆一帯は、 “山温泉”といってもいいくらいの緑の深さがあって、海から山へ、そしてまた海へ、というコントラストを演出し、伊豆の深い味わいに一役買っている。

 というわけで、今回はそんな中伊豆の新緑を味わうために天城を越え、河津七滝ループ橋のすぐそばにある大滝温泉『天城荘』に宿をとった。

 この宿、映画「テルマエ・ロマエ」のロケ地にもなったので、ご存じの方は多いと思うが、ここ数年、激動期を迎えている宿なのだ。2017年の4月から経営が変わり、静岡市に本社のあるソフトウエア会社「リバティー」の所有となった。女将や従業員はほぼそのまま残ったようだが、2018年5月いっぱいで女将が退くことになった。宿の顔でありながら経営者ではない、という葛藤があったのだろう。さて宿はこれからどんな変貌をみせるのだろうか。

 固い話はさておき、レポートを続けよう。

 宿に入ると、ロビーにはバリ風の籐椅子も置かれ、広々としてウッディな雰囲気。

 対して、部屋へ入ると素朴な8畳間で、ここが創業60年を超える老舗宿であることを感じさせる。

 この宿が“天城エリア”にあることをまず感じさせるのは、部屋からの眺め。こんもりと険しい山(おそらく標高627mの大鍋越峠)が、すぐそこに迫る圧巻のビューだ。

ぜんぶ源泉かけ流しの湯舟

 さてお待ちかねの温泉といこう。

 ロビーに比べて手狭な館内を進んでいくと、まずは大浴場が男女別に2つ(入替制)、その隣に狭い貸切風呂が1つ。

 ひとつめの大浴場は、切石でまとめたスクエアな造り。

 ふたつめの大浴場は、丸石で囲まれた湯舟。
 浴衣を脱いで、まずはここにざぶ~ん。このエリアならではの、あっさりめの湯が旅の汗を溶かしていく。やや熱めから水風呂まで、湯舟は4カ所あるから、自分に最適な温度を選んで入れるのがよい。

 泉質は、弱アルカリ性の単純温泉(成分総計530mg)で、カルシウムや硫酸イオンが比較的多め。敷地内にある3源泉を混合して各湯舟に配湯している。この3源泉の配合を季節によって調整し、湯温を適温にしているようだ。

 さっと汗を流して大浴場から出ると、ふたたび浴衣を羽織り、サンダルに履き替えて、いよいよ外へ。

 緑の清々しさにワクワクしながらこの階段を下りると、まず鍵のかかった有料貸切風呂「子宝の湯」がある。

 料金は2000円と少々お高いが、岩をくり抜いた洞窟はワイルドで、一度入ってみる価値はある。洞窟内はかなり暗く、最奥には男性器をかたどった石像が置いてある。カップルで子宝の湯に入れば、間違いなくムラムラしてしまいそうな雰囲気だが⋯⋯まあ子宝の湯だからいいのか(笑)。

 さらにゆっくりと3分ほど下ると、日帰り入浴の受付があり、その先に大滝が現れる。この日は前日に雨が降ったこともあり、ゴウゴウとすさまじい音をあげ、しぶきを立てている。しばし見とれてしまう豪快さだ。

 脱衣小屋で浴衣を脱ぎ、水着(外湯では必須)に着替えて、「河原の湯」へ。

 湯舟は段差をつけて3つあり、42℃・40℃・38℃と、うまい具合に温度調節されている。写真は、真ん中の湯舟だ。

 滝を見上げながら湯につかれば、下界の憂さなどすべて吹き飛び、自分が仙人になったような気分だ。他に誰もいないことをいいことに、湯舟では水着を脱ぎ捨てて、ありうべき湯浴みを愉しんだ。

河原の湯舟探検隊!

 ここから川原沿いに下流へいけば、25mの温水プールがある(夏季営業)。

 だいぶ以前に訪れたときは、この脇道沿いにもいくつか湯舟があったし、上のほうに五右衛門風呂なんかもあったが、がけ崩れがあったために道を作り替え、危険箇所の湯舟は使用をやめたらしい。

 湯舟はこれで終わりか、と思うとさにあらず。

 脱衣小屋の裏には、滝を壁絵のようにして入浴できる半露天があって、これが実にいいのだ。貴族の楽しみといおうか、風雅な味わいである。僕はこの湯舟がいちばん気に入った。

 さらに滝のすぐ横にも湯舟「滝見の湯」があって、滝の水しぶきが常時降り注ぎ、すっかりぬる湯(というより水風呂)になってしまっているが、恐ろしいくらいの迫力で、ちょっとしたアトラクション気分である。あまりにもしぶきが飛びすぎて、撮影不能であった。

 そしてその脇には、「穴風呂」の入り口がある。

 洞穴探検気分で入っていくと、男女別に入口が別れるが、なんのことはない、奥でつながっている。30mというからけっこう奥まで続いていて、ひとりだとちょっと怖いかもしれない。湯気が充満して蒸気浴にもなり、滝で冷えた身体を温めるのにちょうどいい。

夕餉に熟達の技あり!

 さて夕食は、典型的な温泉旅館の心づくし。

 先付にはゴマ豆腐、ホタルイカ、クルマエビなど。お椀はサクラエビ真薯、お造りにはクロマグロ、紋甲イカ、勘八。煮物に金目鯛、里芋、新筍。肉は神戸牛を溶岩焼きで。仕上げは釜飯とくる。

 過不足なくまずまずの内容だったが、印象的だったのは給仕のおばちゃん。この宿が長いという妙齢の美女(!?)だったが、客の状況を見て面白おかしく絡み、男同士の宴を盛り上げてくれた。熟達の技、ごちそうさまでした。

 翌日も滝見の湯を愉しんで、お勘定(酒代も含む)はしめて一人2万円弱。コスパとしてはもうちょっと頑張ってほしいが、このロケーションと滝見温泉があればリピート客は多いだろう。

河津エリアの鄙びた湯舟がすごい!

 さて宿を出て河津方面に向かうなら、ぜひとも立ち寄ってほしいのが、湯ケ野~峰~谷津(やつ)と点在する温泉エリアである。歴史を感じる鄙びた温泉宿が目白押しで、泉質も多彩だ。

 今回は2カ所に立ち寄った。

 まずは、湯ケ野温泉『福田屋』。明治初期から営業している老舗で、かつて川端康成も投宿した。

 河津川にかかる橋を渡っていくアクセスが実に風流で、静かな宿である。

 名物の榧(かや)風呂は創業以来変わらない湯舟で、桝型の湯舟のまわりに古風なタイルがちりばめられ、なんだか100年前にタイムスリップしたような感覚で湯につかれば、熱めのカルシウム・ナトリウム-硫酸塩泉がジンジンと体に効いてくる。

 この宿には他にも石組みの湯舟(&露天風呂)があるが、日帰り湯ではどちらかを選んでの湯浴みとなる(700円)。

 もうひとつの立ち寄り先は、峰温泉『花舞 竹の庄』。こちらも古い宿で、その入り口の見事な破風に息をのむ。

 赤絨毯の敷き詰められた館内はところどころに古めかしさを感じるが、その浴場は圧巻。ブルーのタイルが湯底に敷かれた内湯、趣向を凝らした天蓋と庭の緑が心休まる露天風呂は、大工の心意気が随所に見られ、奥行を感じる空間遣いも実に見事だ。

 泉質はナトリウム-塩化物泉で、99.8℃というとてつもなく熱い源泉をうまく冷まし、かけ流しにしている。
 この豪壮な宿も、いまは素泊まりのみ。時代の流れを感じざるを得ない(日帰り入浴は1000円・要電話確認)。


基本情報

宿名:天城荘
住所:静岡県賀茂郡河津町梨本359
URL:http://amagisou.jp/

宿名:福田屋
住所:静岡県賀茂郡河津町湯ヶ野236
URL: http://fukudaya-izu.jp/

宿名:花舞 竹の庄
住所:静岡県賀茂郡河津町峰487-2
URL:http://takenosyou.com/

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二之宮 隆

二之宮 隆

『温泉批評』編集長。週刊誌、小説誌を経て『ブラボースキー』『soto』『マイルスを聴け!』『画帖 月百姿』など多数の雑誌・書籍にかかわる。ぬる湯・交互浴を好み、入湯源泉数は1100を超えた。