刺青・タトゥー「入浴禁止」の謎

『温泉批評』編集長の深読みレポート③

温泉を独自のスタンスで論じる雑誌、『温泉批評』編集長が探る温泉のいま。
第三回目のテーマは刺青・タトゥーについてです。

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タトゥー

筆者:二之宮隆(にのみやたかし)
『温泉批評』編集長。週刊誌、小説誌を経て『世界のクルーズ』『ブラボースキー』『soto』『マイルスを聴け!』など多数の雑誌・書籍にかかわる。ぬる湯・交互浴を好み、入湯源泉数は約800。

 

仕事帰りにこそ温泉に入りたい私は、都内でもよく温泉に行く。幸い最近ではあちこちに日帰り温泉施設ができ、源泉かけ流し浴槽をしつらえているところもあるから、満足度はかなり高い。また、大田区蒲田江戸川区船堀あたりへ行くと温泉銭湯がたくさんあって、夏場には冷たいモール泉を味わいに足を延ばす。

まあ要するに日帰り温泉施設と銭湯をバランスよく利用している、というわけだが、ずっと不思議に思っていたことがあった。

銭湯では刺青をしている人を必ずといっていいほど目にするのに(特に船堀では8割以上)、なぜ日帰り温泉施設ではほとんどが「刺青・タトゥー禁止」なのか?

利用者にすれば同じ温浴施設である。それが、刺青に対してまったく正反対の対応をしているのだ。これを奇妙と言わずしてなんと言おうか。

カバーシール導入で問題解決!?

疑問は日ごとに大きくなっていくのだが、その疑問に答えてくれる本も資料も見当たらなかった。それで、『温泉批評2014秋冬号』で10ページを割いて「刺青・タトゥーはなぜ禁止なのか?」をやった。

その記事の影響かどうかは定かでないが、翌2015年の4月に、星野リゾートが“カバーシール(8cm×10cm)でタトゥーを隠せば入浴OK”の方針を打ち出し、「界」ブランド全施設で10月から試験的にスタートしている(半年間実施)。それ以外にもカバーシールを試験導入する温泉施設が出てきており、“果たしてシールは根本的な解決になるのか?”という疑問はさておき、タトゥー入浴に関する施設側の意識は、確実に地殻変動してきているように思う。

刺青入浴を禁止する法令はどこにもない

そもそも、刺青は「公衆浴場法」にも「施行条例」にも記載がなく、特に入浴が禁止されているわけではない

銭湯はもともと家に風呂のない外湯時代からのものであり、地域住民の生活に必要な施設という位置付けだから、原則的に刺青をしているからといって拒む道理はない。それが、いまでも私たちが温泉銭湯で刺青に遭遇する所以だ。

いっぽうの日帰り温泉施設やスーパー銭湯だが、特に業界団体は存在していないために(関連団体には日本サウナ・スパ協会などがある)、各施設で個別に判断しているのが実情だ。それでもこれだけ「刺青・タトゥー禁止」の表示がおしなべて目立つのは、無用なトラブルを避けようという事なかれ主義が施設側に蔓延した結果といえるだろう。

宮城県の温泉宿の脱衣場にあった掲示。「暴力団」と「ファッション的タトゥー」が完全に同一視されている。警察署の名前入りというのも珍しい。
宮城県の温泉宿の脱衣場にあった掲示。「暴力団」と「ファッション的タトゥー」が完全に同一視されている。警察署の名前入りというのも珍しい。
宮城県の温泉宿の脱衣場にあった掲示。「暴力団」と「ファッション的タトゥー」が完全に同一視されている。警察署の名前入りというのも珍しい。[/caption]

2010年10月、観光庁は全国の温泉施設(ホテル・旅館)3768軒を対象とした、刺青・タトゥーのある利用者への対応に関する実態調査の結果を発表した。刺青がある利用者を「断っている」施設は55.9%、「断っていない」のが30.6%、「シールで隠すなどの条件付きで許可している」のは12.9%だった。宿泊施設での対応は、銭湯と日帰り温泉施設のちょうど中間くらい、ということになろうか。

日本人に刷り込まれた刺青への恐怖

私も『週刊大衆』というやくざな週刊誌の編集を10年以上やっていたので、刺青については感覚的には分かっているつもりだが、日本の伝統的な刺青は、刑罰や職業を表すためのものからやがて極道者の象徴となった。いわば“相手を震え上がらせるため”に彫っていたわけだ。その感覚は、今の私たちの中にも、確かに存在する。

求人サイトを運営するライフラボ社が日本人に対して行った刺青に対するアンケート(2014年調査)でも、刺青のある人の入浴については59%が「今後も入浴を断るべき」と答えている。

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開かれた温泉であるために

しかし、外国の人たちがする刺青は、そういう背景はまったくない。純粋にそれが“美しい”あるいは“カッコイイ”から入れるだけだ。
ましてや、タトゥー(シール)ともなれば、大半はただの“遊び”である。絵柄だって、天女や般若なんてのはなく、手首や足首にハートマークやら蝶々やらを可愛く入れるようなのがほとんどである。

それが同一線上で「禁止」というのは、日本人としてどうにも解せないではないか。「どこまでがOKという線引きが難しい。必ず客とのトラブルになる」と施設側は言うが、それはあくまで管理する側の都合である。

だが、なんにでも例外はある。『温泉批評』でも紹介しているが、千葉県成田市の日帰り温泉施設『大和の湯』では、公式HPのQ&Aコーナーで「刺青がある方の入館を特にお断りしてはおりません。(中略)大和の湯では、人を見かけによって判断することはしません。少なくともそのように努力することが、新しい世代に向けて開かれた温泉の姿であると認識しています」と、感動的な一文を載せている。

大和の湯HPの写真

東京オリンピックで入浴拒否続出!?

ベッカムやネイマール、カブレラ、クリス・アンダーセン⋯⋯ご存じのように、外国のスポーツ選手、特にサッカーやバスケット、ボクシングの選手は、タトゥーを入れている確率が非常に高い(NBAの選手のうちタトゥーを入れているのは56%というデータもある)。

彼らが国際試合やオリンピックで日本に来て温泉を楽しもうとするとき、タトゥーがあるために入浴拒否──なんてことが起きうるのだろうか。
アンジェリーナ・ジョリーやスカーレット・ヨハンソンでも施設からつまみ出されるのか? それとも、“有名人は別”なのだろうか?

日本も早く国際社会に足並みを揃えて⋯⋯なんて言うつもりは毛頭ないのだが、これだけタトゥーを楽しむ人が増えている今の社会では、「刺青=タトゥー=怖い」という図式はほとんど破綻しているように見えるのだ。

実際、私の通う温泉銭湯では、刺青やタトゥーの人のマナーが悪いと思ったことは一度もないし、ましてや彼らがトラブルを起こすような行動を取ったこともない。むしろそのあたりは彼らのほうがわきまえているように思う。

日帰り入浴施設が貼るべき表示は、「刺青・タトゥーお断り」ではなくて、「暴力団関係者お断り」ではないのだろうか?

※文章中の写真の無断転載・引用を禁止いたします。

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二之宮 隆(にのみや たかし)

二之宮 隆(にのみや たかし)

『温泉批評』編集長。週刊誌、小説誌を経て『世界のクルーズ』『ブラボースキー』『soto』『マイルスを聴け!』など多数の雑誌・書籍にかかわる。ぬる湯・交互浴を好み、入湯源泉数は約900。