【後編】100年企業の「企画力」〜アニメコラボに見る老舗製薬の仕事術〜

TVアニメ『けものフレンズ』コラボの取材を通して、内外薬品という会社の魅力的な「働き方」が見えてきました。インタビュー後半は、内外薬品の「企画力」を通して、伝統企業の素顔に迫ります。

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内外薬品の代表取締役社長・笹山敬輔さんと、コラボ企画担当の北村学さんの写真
インタビューに応対してくれた内外薬品の代表取締役社長・笹山敬輔さん(写真左)と、コラボ企画担当の北村学さん(写真右)

2001年に創業100年を迎え、116年目を迎えた老舗製薬会社「内外薬品」。

「伝統的な日本の風景」でもある「ケロリン桶」の販売元でありながら、2017年の大人気アニメ『けものフレンズ』とコラボレーションして話題となりました。

【前編】けものフレンズ×ケロリン桶のコラボ秘話を独占インタビュー!

にひきつづき、【後編】では、なぜ老舗企業の内外薬品が、『けものフレンズ』という超人気コンテンツと一ヶ月という短期間でコラボレーションすることができたのか、内外薬品の働き方企業文化・風土、さらには笹山社長の驚きの素顔を通して明らかにします。

あくまで桶は「広告媒体」

有名テレビ番組とコラボした時の桶の写真
過去には有名テレビ番組とコラボしたことも(かなり例外的なデザインになっている)
編集長
歴史のある内外薬品が、アニメ『けものフレンズ』や『ケロロ軍曹』などのアニメとコラボレーションするのはなぜなのでしょうか?
笹山社長
これは、「薬の会社がなぜ桶をやるのか」ということからお話しなくてはなりません。
以前お話しした通り*、もともとは木製桶が主流の時代に、睦和商事という広告代理店さんの提案で、当時画期的だった合成樹脂の風呂桶に内外薬品の「広告」を載せたものが「ケロリン桶」です。これは現在でも変わりません。あくまで主商品は薬の「ケロリン」であって、桶は「広告媒体」の一つでしかないんです
編集長
桶に限らず、「ケロリン」の広告グッズは他にもありましたね。
ケロリン桶のグッズの写真
ケロリン桶のグッズ ストラップから石鹸まで幅広い。(内外薬品提供)
笹山社長
そういう意味で、「ケロリン」のために様々な宣伝をやるという文化はありました。
ところが、『テルマエ・ロマエ』の作品内や広告で弊社の桶が使われると、ケロリン桶がものすごく売れたんです。そのため、作品とのコラボは「ケロリン」の広告効果を高めると知り、その後の『ケロロ軍曹』とのコラボにつながります。
編集長
現在、ケロリン桶は個人での購入が増えているそうですね。
笹山社長
そうですね。ヴィレッジ・バンガードさんなどでケロリングッズ販売が好調だったこともあり、現在はアニメコラボ商品もふくめて個人のみなさんへもお売りしています。
北村さん
一方でコラボ桶を使っている銭湯もあるようです。先日『けものフレンズ』のたつき監督が、「桶が全部『ケロロ軍曹』の銭湯を見つけた」とおっしゃっていました。

ガチガチにやってしまうと、いい仕事も、いい作品もできない

コラボ企画担当の北村学さんの写真
北村さん
製薬会社って薬事法があるので、広告に自由度が少ないんです。でも「桶」なら雑貨です。だからいろいろなことにチャレンジできる。
笹山社長
つまり自社で「桶」という広告媒体を持っているのが他社にない弊社の利点なんですね。その利点を最大限に生かしたい。
編集長
なるほど、「製薬会社だからこその制約」と、それに代わる強みがあると。
北村さん
・・・・・
笹山社長
なので、薬以外の広告展開については基本的に社員に任せているんです。社員のことを信頼し、自由にトライしてもらいたいと思っています。うちの社員は社益に沿った事をしてくれると信じていますから。
編集長
(お、華麗にスルーされた)
北村さん
社長がそう言ってくださるので、その期待に裏切らないように、真摯にやろうと決めています。そのため私は、こうしたコラボレーションをするときも、「間違いなくいける!」というレベルまで考えつめて、タイミングをはかって打つようにしています。
編集長
お互いの信頼が大切ですね。
北村さん
笹山社長は一度社員に任せたら、もし結果がダメでも「次頑張ってね」と言ってくださるんです。そこが自分の働き方にピッタリ。私は「そういう場面で力を発揮するフレンズ」なんですね。
編集長
日本の会社は、失敗を恐れてなかなかチャレンジできないという意見もありますね。
笹山社長
もし結果的に失敗してしまっても、それがトライした結果だったらいいと思うんですよ。
北村さん
それと、仕事は真面目にやることが大切ですが、コラボレーションなんかをするときは柔軟性が大事だと思うんです。
今回のコラボ企画でも、KADOKAWAさんはかなり柔軟に対応してくれました。なんでもかんでもガチガチにやってしまうと、いい仕事も、いい作品もできないと思います。

社長は現役文筆家!?

代表取締役社長・笹山敬輔さんの写真
編集長
内外薬品は家族経営とお聞きしました。以前お話を伺った時は「取締役」でいらっしゃいましたね。
笹山社長
そうですね。私の父も内外薬品の社長で、私は職員として少し勤務したのち取締役を経て、2016年に社長に就任しました。
編集長
笹山社長は、じつは変わったプロフィールをお持ちだとお伺いしました。
笹山社長
私はもともと理系だったのですが、大学から文学部に入って文学博士号を取りました。
編集長
博士号! そして研究内容は大衆芸能だとか・・・
笹山社長
博士論文は「近代歌舞伎が現代劇になっていく過程」について研究しました。
現在は当時の大衆芸能、つまり少女歌劇や宝塚、お笑い芸人について調査しています。例えばこの『幻の近代アイドル史』という本は近代の少女演劇が「アイドル」の元祖であるという内容ですね。
『幻の近代アイドル史』を手に持つ、代表取締役社長・笹山敬輔さんの写真
「明治以降の大衆芸能」からアイドル文化を解明した『幻の近代アイドル史』(彩流社)
編集長
え! 現在も調査されているんですか!?
笹山社長
ええ、今も文筆活動を続けていますよ
北村さん
社長は、平日は弊社の社長として全国を飛び回り、休日は文筆家として、いつも国立国会図書館に通われています。執筆は移動中などにされているみたいですね。
北村さん
確かにそういうことにはなりますが、私はむしろ社長をお手本にしたいと思っています。けじめをつけて仕事と研究活動の切り分けをされていますし、尊敬しています。
編集長
なるほど! さまざまな働き方が模索される時代、これから「副業」「本業」という考え方は、過去のものになっていくかもしれませんね。

「ジャパリパーク的」人材活用

ケロリンの箱を手に持つ、コラボ企画担当の北村学さんの写真
北村さんは「薬の専門家」薬剤師でもある
編集長
北村さんのプロフィールについても教えてください。
北村さん
私は小さい頃から生物が好きで、そのまま薬系大学を卒業、国家試験を経て薬剤師の免許を取りました。就職後は薬局小売業の店長やコンサル業を経て、学術関係や研修担当として内外薬品に入社しました。
編集長
その後企画担当として・・・
北村さん
いえ、じつは私は企画担当ではなく「何でも屋」なんです。小売やコンサル業の経験があるので何でもしています。コラボ企画に関しても仕事のうちの一つでしかありません。
笹山社長
うちは創業以来、企画部署や広告部署は独立して置いていません。むやみに部署を置くと判断に時間がかかりますね。なので「桶の担当」もいないんです。もちろん、大きな会社ではこうはいきませんけどね・・・
北村さん
生物・薬学への興味と並行して、まだ20MBのハードディスクが4万円だったような頃から「コンピューター」が好きで、その影響もあってゲームやアニメも楽しむようになりました。ちなみにモバイル端末は現在7個契約しています。
編集長
・・・・・
コラボ企画担当の北村学さんの写真
編集長
そうすると、今回の『けものフレンズ』とのコラボレーションは、北村さんの個人的な好みでもあるという側面も。
北村さん
そう言われてしまうと、そうですね。
笹山社長
私としては、好きなことが仕事につながり、会社の利益にもなるというのが、もっとも理想的です。「仕事だから」と割り切るより、好きなことをどう仕事に生かすかを考えていくと良いのではないでしょうか。
編集長
本業と副業のメリハリをつけて文化的活動を続けるフレンズの笹山社長、いっぽう好きなことで会社の利益を追求するフレンズの北村さん。まさに多様性を大切にする「ジャパリパーク」のような人材活用ですね!

「桶屋」ではなく「薬屋」

笹山社長
基本的に、「桶」に関してはゆるくやっています。ブランドとして守るより、どんどん使ってもらいます。でも、なんでもコラボレーションするわけではありません。
例えば、うちは絶対「ケロリン桶の宣伝」はしないんです。弊社は「桶屋」ではなく「薬屋」。あくまで広報するのは薬の「ケロリン」なので、コラボ桶には必ず「ケロリン」の四文字を入れていただいています。
『銀河英雄伝説』とコラボしたケロリン桶の写真
かつては限定で『銀河英雄伝説』とコラボしたこともある
北村さん
「三方良し」という言葉がありますね。うちのコラボはそれが原則です。「ケロリン」の名前が売れて、みんなが楽しく、幸せになることが大事です。
編集長
「売り手も買い手も満足し、さらに社会貢献にもなる」という考え方ですね。
北村さん
なので、うちは例えコラボをしても価格は据え置きで定価の1300円(税抜)です。「アニメ価格」には絶対にしませんそれでは「買い手良し」にならないからです。ですので、それをOKしてくれるようなところとじゃないとコラボレーションはしないのです。
あと、継続性がなく単発で終わってしまうものも難しいですね。『ケロロ軍曹』はとても息の長い作品ですし、『けものフレンズ』もきっとそうなるでしょう。
編集長
なるほど、長く愛され、売り手も買い手も幸せになるようなコラボレーションを見極めることが何より大切、ということですね。

健康の喜びを広げるために

ケロリンとケロリンA錠の箱の写真
昔からデザインの変わらない「ケロリン」と「ケロリンA錠」
編集長
内外薬品の今後の展望について教えてください。
笹山社長
弊社の理念は「病む人々を助け、健康の喜びを広げたい」ですが、これは変わりません。本業の医薬品で病む人々を救い、桶というアセット*を利用して、健康の喜びを広げるわけです。
*財産・資産
編集長
具体的にはどんなものでしょうか。
笹山社長
今の日本の医療環境はご存知の通りで、今後セルフメディケーションはさらに重要になるでしょう。弊社はOTC*がメインですので、やはりそこに力を入れていきます。
*家庭用医薬品のこと
北村さん
日本社会そのものがシュリンク(縮小)していく中で、いかに「ケロリン」以外の新しい価値を提供していくかも重要ですね。
編集長
そこで内外薬品の機動力を生かすと。
北村さん
弊社の特徴は「真面目なのにゆるい」というギャップですね。真面目一辺倒で、ずっとピリピリしていても効率は上がりません
編集長
なるほど、社会的な責任や理念をめざすことは忘れない中で、その中にゆるさがあるのが、内外薬品の経営であり、働き方と言えますね。

いいコラボレーションをするために

編集長
異業種間でコラボレーションする際の秘訣はありますか。
北村さん
今回、『けものフレンズ』とのコラボレーションがここまで順調にいったのは、弊社のやり方と、KADOKAWAさんの企業風土がマッチングした結果だと思います。まさに、『けものフレンズ』第5話での「アメリカビーバーとプレーリードッグ」*そのものです。

*設計や事前準備が得意な「アメリカビーバー」と、実際の建造が得意な「プレーリードッグ」がコラボレーションすることで、魅力的な家を完成させることができたというストーリー。
編集長
なるほど。
北村さん
KADOKAWAさんはかなり大きな会社ですが、何か提案するとすぐ「やろう!」と動いてくれる。それは物作りへのリスペクトと、利益よりも大切にしているものがあるからでしょうね。
編集長
たしかに、今回のYutty!の一連の記事制作に関しても、KADOKAWAさんはかなり柔軟に、スピード感を持って対応してくださいました。
笹山社長
私は芸能研究者ですので、創作的なものにはできる限りの理解を示したいと思っています。なので、クリエイターや企画者に何か細かく指示をするのは心理的に避けたいですね。「いいもの」は上から押し付けるのではなく、自由にしてもらって初めて出来上がるんです
北村さん
それから今回、KADOKAWAさんとは何度か打合せをしましたが、ほとんどお金の話は出ていません最初から利益分配やコストの話が出るコラボレーションはうまくいかないと私は思いますね。これが、先ほどの「三方良し」につながるんです。
編集長
そういえば、うまくいっている町おこしも、同じような特徴がありますね!
笹山社長
『ケロロ軍曹』の時も感じましたが、KADOKAWAさんは作品への愛情や力の注ぎ方が素晴らしい。だから私も信頼してお願いできています。
北村さん
近年、アニメやサブカルチャーとのコラボが各方面で注目されています。でも良いコラボレーションをするにはその相性や「三方良し」を熟考した方が良いと思います。なんといっても、フレンズによって得意なことは違うわけですから!
コラボ企画担当の北村学さんの写真
コラボするときは得意不得意をよく考えよう!
編集長
今日は、アニメコラボの秘話からお二人の仕事観まで、いろいろ伺うことができました。笹山社長、北村さん、お忙しいところ本当にありがとうございました!
北村さん
こちらこそ、ありがとうございました。
笹山社長
今後とも、ケロリン桶と『けものフレンズ』をよろしくお願いいたします!

内外薬品の代表取締役社長・笹山敬輔さんと、コラボ企画担当の北村学さんの写真

今回、『けものフレンズ』のコラボレーションについて取材をするなかで、内外薬品という老舗企業が実践する「企画力」について伺い知ることができました。また同時に『けものフレンズ』という作品には、現代社会で我々が実践すべき人間関係やコラボレーションのあり方が隠されているということも明らかになりました。

もちろん企業によって風土や文化のあり方は千差万別ではありますが、グローバル化が進み物事のスピードが速まっていく中で、メンバーがどのように生き生きと働き、企業の「個性」を出していくのかという点で、内外薬品の仕事観は、一つのリファレンスとなるのではないでしょうか。

新旧ケロリン桶を持った、内外薬品の代表取締役社長・笹山敬輔さん、コラボ企画担当の北村学さんと、Yutty!編集長の写真
新旧ケロリン桶とともに

なお今回のインタビューにあたっては、内外薬品の笹山社長・北村さんのお二人のみならず、株式会社KADOKAWA『けものフレンズ』担当の皆さんにも大変お世話になりました。この場を借りて御礼申し上げます。

また『けものフレンズ』は、こうした「たくさんのたいせつなこと」を私たちに教えてくれる作品だからこそ、多くの人々の心に響いたに違いありません。たつき監督を始め、『けものフレンズ』の製作陣のみなさんに心より敬意を表します。

※「ケロリン®」は内外薬品株式会社の登録商標です

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けものフレンズプロジェクト 公式サイト http://kemono-friends.jp/
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内外薬品株式会社 ~ 頭痛・生理痛・歯痛にケロリン https://www.naigai-ph.co.jp/
ケロリンファン倶楽部 https://www.kerorin.com/

販売情報
キャラアニ:http://www.chara-ani.com/list.aspx?search=k:kemonofriends
KORDER:http://www.korder.com/list.asp?keyword=kemonofriends

※「けものフレンズxケロリン桶」の著作権はけものフレンズプロジェクトAに帰属し、株式会社KADOKAWA及び内外薬品株式会社の許諾のもと使用しています。当記事で使用している画像、内容の一切の無断引用を禁じます。


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大谷優介

大谷優介

Yutty!編集長、歴史トラベルライター。歴史と入浴文化を中心に世界各地を取材。元温泉ホテル設備管理者。水利用施設環境衛生士、温泉健康指導士。えにし書房『台湾へ行こう! 見えてくる日本と見えなかった台湾』(藤田賀久, 大谷優介/平賀匡)著、集英社「週刊プレイボーイ」『新世代スーパー銭湯対決!』取材協力など。