20数年で6割の混浴温泉が消滅
Yutty!の読者のなかには、「混浴? 入ったことないよ」という人も多いと思う。日本にある混浴温泉の数はいままさに激減中であり、目に触れる機会そのものが少なくなっているからだ。
公式な統計がないので大まかな数字になるが、ほんの20年前(1990年代)には、混浴温泉の数は日本全国で1200以上あった(混浴宿のほかに共同湯や野湯も含む。貸切風呂や水着着用の風呂は混浴とはみなさない)。それが『温泉批評』を創刊した2013(平成15)年には700を割り、総力特集「混浴温泉は絶滅するのか?」につながった。
その後、さらに減少率は加速度を増し、2015年には500を切っている。わずか20数年で、なんと6割もの混浴温泉が消滅した計算になる。
このままいけば、この日本で混浴に入れなくなる日がそう遠い未来ではないことは、誰が考えたって明らかだろう。
法律で規制され新設できない混浴湯船
原因は、大きく2つある。
まずは、法律の問題。温泉旅館を規制する「旅館業法」と、日帰り温泉施設を規制する「公衆浴場法」(あるいは「公衆浴場条例」)がそれに該当するが、これらの法規のなかで、原則として「男女を別の浴室にすること」「10歳以上の混浴禁止」などが明記されているのだ。
だから、いま現在日本に存在する混浴というのは、あくまで昔から続いている伝統に基づいてお目こぼしを受けているものであって、新たに混浴の湯舟を造ろうと思っても、役所から許認可が下りることはまずない。宿の建物を改装したりするときも、湯舟の移動などを伴うものであれば「男女別にしろ」と必ず指導される。
要するに、放っておいても数は減っていくということなのである。
マナーが悪く閉鎖になるケースも
もうひとつの原因は、マナーの問題だ。
塩原温泉の混浴共同湯「不動の湯」が2015年6月に閉鎖されたのは記憶に新しいが(その後8月から期間限定で再開)、その原因も「風紀を乱す行為が絶えないため」。具体的には露出マニアやAV撮影によるわいせつ行為が湯舟で頻繁に行われていたためだった。
これと同じようなことは、全国で同時多発的に起こっている。特に、女性の裸を見る目的で混浴に通う「ワニ」に至っては、いまや混浴湯舟で見かけないことはない、といってもいいほどだ。
かくいう筆者も、とくにここ数年、日本各地でそんな輩にたびたび遭遇している。青森市の「酸ケ湯温泉」では板の隙間から女性を覗き見ようとしている男が何人もいたし、伊豆下田「河内温泉」でも、混浴の千人風呂に入ってこようとする女性目当てに、その扉の前で4~5人の男が待ち構えているのに遭遇した。
別府の明礬温泉の泥湯露天でも、女性を取り囲むように単独男性客が10人以上もたむろしていた(もちろん、いつもワニがいるというわけではない)。さらに、長野県のある有名日帰り温泉の混浴露天では、濁り湯であるのをいいことに、入浴中の女性を“オカズ”に、浴槽内で肉棒をしごいているオヤジもいたのだ。こんな例は、本当にごく一部だ。
そんなワニたちに話を聞いたことがあるのだが、
「かれこれ数時間いますが、もう3人(女の裸が)見られましたから、今日は元がとれましたよ」
なんてことをいけしゃあしゃあと言う。要するに、混浴温泉をストリップかなにかと勘違いしているのである。
こんな状態だから、女性はさぞかし混浴湯舟には入りにくいと思う。当然、ワニがいたら宿に文句も言いたくなるだろう。宿のほうもあんまり苦情が多いものだから、“めんどくさいから、混浴をやめよう”ということになる。要するに、ワニたちは自分で自分の首を絞めているのだ。
以上でおわかりのように、混浴滅亡は、すでにカウントダウンされている。その瞬間をできるだけ先に引き延ばすために、私たちはなにができるのだろうか。
自分が混浴の湯舟に浸かっているとき、女性が入ってくる気配があったらガン見⋯⋯なんてもってのほか。視線を外してあげて、タイミングをみて挨拶をする。のどかな風景を眺めながら、「いい湯ですね」なんて話しかけてみれば、女性も緊張がほぐれるだろう。
また、同行の女性がいたら、他の客に一声掛けたり、バスタオルで守ってあげたりする。変な挙動の輩がいたら、それとなく注意する。等々。
施設側も、貸切風呂にしたり男女別時間を作ったりバスタオル巻きを義務付けたり時間外は湯を抜いたり⋯⋯という安易な対処の仕方をせず、堂々とワニたちと渡り合って欲しい。純粋に温泉を楽しみたいファンが入りにくくなる方向は、決して改善とはいえないと思うのだ。
もともと日本人は、江戸時代に混浴禁止の幕府令が何度出ても人々の間に混浴がなくならなかったほど混浴好きな国民性である。混浴の湯舟がその温泉地でいちばん泉質がいいことも、体感的にわかっている。マナーの問題が改善され、女性や子供や普通の一般客が混浴湯舟に戻ってくれば、混浴禁止の法律さえも動かしていくことができると、私は本気で信じている。
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