前回のレポートでは混浴温泉の危機について書いたが、まさにいまその矢面に立たされているのが、栃木県・塩原温泉だ。温泉街の中心部にある混浴共同露天風呂4つが次々に閉鎖され、観光資源としても危機に陥っている。 『温泉批評』最新号でも紀行作家の飯塚玲児氏に現地取材をしていただいているが、その後どうなっているのだろうか。矢も盾もたまらず、土日を利用して冬の塩原に向かった。
途中、道の駅「アグリパル塩原」で休憩をしたのだが、那須塩原市による放射能測定値が表示されていた。10月の値が0.21µSv/hで、除染は進んでいるものの高め(基準値は0.11µSv/h)。このあたりは住宅街があるので、住民の方々は心配だろう。ただこの数値は、がま石トンネルを過ぎて温泉街に入ると0.08µSv/h程度に落ち着く。
共同湯から宿の貸切風呂になった『青葉の湯』
まず訪れたのは、畑下(はたおり)地区にある、かつての共同湯『青葉の湯』。山ゆりの吊橋を渡っていく。 のぞき被害や盗難が続いていたことから、自治会としても管理しきれず数年前に閉鎖され、その後近くにある宿「湧花庵」の所有となった。その名も『楓の湯』に変わり、宿の貸切露天風呂として使用されている。箒川を眼下に眺めながらの湯浴みは健在だが、宿自体が1泊2食2万円前後と塩原にしては高価格帯なうえに、『楓の湯』は予約制の別料金で45分1800円となっているから、この湯を楽しむのにはハードルがけっこう高くなってしまった。
観光客がひっきりなしにやってくる『もみじの湯』
次に足を向けたのは、古町地区にある『もみじの湯』。「塩原もの語り館」から紅の吊橋を渡ったところにある。 こちらも盗難やのぞき被害があったうえに、2015年春に利用者の溺死事故があり、夜間(午後7時~午前7時)入浴禁止となった。9月の大雨による増水時にも被害にあって一時使用できなかったが、10月に再開。
泉質はナトリウム-塩化物・炭酸水素塩泉で、あたたまる湯のはずなのだが、このときは写真奥の半分が40℃程度、手前が37℃ほどで、冬場には少々ぬる過ぎた。土日のため入浴客はそれなりに多く、湯の鮮度もいまひとつだったが、ついつい長湯をしてしまった。
協力金100円を入れる箱があるが、目立たないせいか入浴客はほとんど気付かないようだった。見学だけの観光客もひっきりなしにやってくる。管理の苦労がしのばれた。
そして福渡地区にある『岩の湯』と『不動の湯』。こちらも不動吊橋を渡っていく。
現在、無料で快適に入浴できる『岩の湯』
まず『岩の湯』だが、こちらは地元住民でにぎわっていた。 落石事故のため手前側が閉鎖されていたうえに、9月の増水時にも水没し、やはり10月になって再開した。いまではこの通り、両方とも無料で入浴できる(午前6時30分から午後9時まで、女性は湯浴み着かバスタオル着用)。
岩のあちこちから湧いているナトリウム・カルシウム-塩化物・炭酸水素塩泉の湯は42℃の適温で、箒川側にもみじの湯のような衝立もなく心地がいい。こちらに地元の人たちが集中するのもうなずける。
住民によると、「この崖の上にたまに鹿が来るんだよ。だから落石には注意しなくちゃならん」とのこと。
これだけの自噴泉である。入ってしまえばそんなことも気にならなくなってしまうが、いろいろ気遣いをし、話しかけてくれる地元の人たちの優しさが、こんな時期だからこそ心に沁みた。
冬季閉鎖中の『不動の湯』は春再開予定
その奥にある『不動の湯』を、実はいちばん楽しみにしてきたのだが……。 土日はやっているはずなのに、閉鎖中で湯が抜かれていた⋯⋯。そういえば『温泉批評』でも“11月15日までの土日祝営業で冬季は閉鎖”としていたではないか。本作ってて忘れるとは⋯⋯トホホ。これから塩原に行こうと思っている人は、要注意デス(再開は春予定)。
しかし、かつて何度もこの新鮮なドバドバ湯(ナトリウム・カルシウム―塩化物・炭酸水素塩泉)を訪れ、男女がにぎやかに入湯を愉しんでいた時を知っている身としては、なんとも寂しい情景である。『不動の湯』は塩原温泉の象徴ともいえる混浴露天共同湯だが、“風紀を乱す行為が絶えないため”2015年6月1日に閉鎖された。露出狂による迷惑行為や、過激なアダルトビデオ撮影が頻繁に行われていた、ということである。その後8月1日に再開されたが、土日祝日の午前8時~午後4時までの営業で、新たに管理人を置き、時間外は湯を抜く。女性には湯浴み着またはバスタオルが義務づけられている(清掃協力金は300円)。
後世に残したい温泉ワンダーランド
こうして見てくると、この4つの共同湯に相次ぐ閉鎖問題は、塩原温泉にとって“呪われているのか?”と思いたくなるほどの受難には違いない。
塩原温泉郷は、半径5km以内に150もの源泉があり、毎分1万リットルの湯が湧く。泉質も6種類ある(単純泉、塩化物泉、炭酸水素塩泉、硫酸塩泉、硫黄泉、酸性泉)。
まだまだ新湯地区には味わい深い共同湯も存在するし、『湯守田中屋』『明賀屋本館』『和泉屋旅館』『源泉の湯東や』『ゑびすや』など素晴らしい混浴宿も10軒以上あって、温泉好きを飽きさせることがない。
この“温泉ワンダーランド”を後の世代にどう残していったらいいのか。一部の不心得者を懲らしめつつも、温泉を愉しむ入浴客の自由をどう尊重していけるのだろうか。 地ビール「塩原温泉プレミアム」と塩原名物「スープ焼きそば」を楽しみながら、そんなことをつらつらと考えるのだった。
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