目次
高雄から一時間、四重渓温泉
皆さんは「四重渓温泉」という温泉地をご存知でしょうか。
台湾南部は、歴史深い台南や、大都市高雄はもちろん、屏東や枋寮など個性的で味わい深い地域が多いのが特徴です。
台湾南部最大の都市である高雄の周辺には、幾つもの魅力的な温泉があり、今回ご紹介するのはそのうちの一つ、「四重渓温泉」(しじゅうけいおんせん)です。
四重渓温泉は、高雄から台湾を代表する観光地である「墾丁」に向かう途中にある「車城郷」から車で約10分ほどの山あいにある温泉地です。
今回は墾丁でマリンスポーツを楽しんだ後に滞在するにも最適な「四重渓温泉」に注目です。
四重渓温泉と日本
「台湾四大名湯」の一つと呼ばれる四重渓温泉はとても歴史のある温泉地で、保養地としての歴史は清朝時代に遡ると言われています。その後、日本時代に温泉地として開発が進みました。
そして、昭和天皇の弟で、今上天皇の叔父にあたる高松宮宣仁親王が1930年に新婚旅行で四重渓温泉を訪れ、一躍有名になりました。
皇室の愛用した温泉地である一方、後述のように日本軍と台湾「原住民族」*の間で悲惨な衝突があった場所でもある四重渓温泉は、日本人にとっては一度訪れておかなくてはならない温泉地かもしれません。
清泉日式温泉旅館
戦前から残る旅館
今回ご紹介する【清泉日式温泉旅館】(以下「清泉温泉館」)は、日本統治時代には「山口旅館」として国賓や高級軍人に愛用されていた温泉旅館でした。
そう、高松宮宣仁親王がハネムーンでここ四重渓に訪れた際に滞在した旅館こそが、この【清泉温泉館】なのです。
名前に「日式」が付いている通り、その外観は日本風そのもの。日本をイメージしているどころか、看板には「せいせん」と日本語で旅館名が書かれているのです。
太子湯
【清泉温泉館】が「山口旅館」だった当時、高松宮宣仁親王夫妻が利用した浴槽は「太子湯」として今でも保管されています。
日本時代のおもかげ
旅館の歴史を伝えるパネルが並ぶ本館から廊下を渡った古い建物の中にあるのが「太子湯」。とても皇族や高級軍人が使用していたとは思えない素朴な内装ではありますが、その歴史の重みについ言葉を失ってしまいます。
大浴場(露天風呂)
【清泉温泉館】のメインはこちらの水着で入る露天風呂。日本をイメージした岩風呂はとても広い造りになっています。
四重渓温泉は透明なアルカリ性炭酸水素塩泉でphは8前後、温度も36℃前後のぬる湯から、38℃、40℃と幅広い世代で楽しめるようになっています。なかには日本の銭湯のような44℃の浴槽も。
暖かい台湾で44℃の湯船に入るのはなかなか勇気がいりますが、台湾人のおじいさんおばあさんは平然と入っていて、どこの国もシニア恐るべし・・・です。
夜になると、さらに抜群の雰囲気に。
筆者もついこの顔です。
日帰りも可能なこちら、
コインロッカーやドライヤーも完備しています。
こちらの浴場では入浴時に水泳キャップが必要ですので、ご用意くださいね。
日式貸切風呂
日本と同様に裸で入ることができるのが「日式湯屋」と呼ばれる個室風呂。
本館浴室「日式湯屋」は和風をイメージした入口。春・夏・秋・冬にちなんだ名前が付けられています。
湯船・流し場・化粧台が完備されていて、湯船のノブをひねると、そそぎ口から新鮮なお湯がドバドバと流れてきます。
また、増設した新館にも「日式湯屋」があり、こちらはさらに大人数でも入れる貸切風呂になっています。
ぜひ仲良しカップルやファミリー、ご夫婦などでの入浴にいかがでしょうか?
客室
【清泉温泉館】には通常の洋室棟と、スイートルームの和室棟があります。
京都和室房
こちらは特等和室の「京都和室房」。価格は一泊2人1室4,600台湾元(約17,000円)〜。
日本庭園風の中庭に面した和室から眺める風景は日本の景色そのもので、そこが国内なのか海外なのか、一瞬わからなくなるくらいです。
風呂上がりに縁側に座り、ゆったりと団扇を仰ぎながら過ごせば、かつての日本人たちが過ごした異国の風を感じ取れるような気がします。
和室にも貸切温泉があり、温泉浴槽と水風呂が備えられているのは台湾に良くある形式です。
豪華御詠房
そしてこちらは新館の「豪華御詠房」。一泊2人1室5,500台湾元(約20,000円)〜。
「御詠」は天皇陛下や皇族が作る詩のことで、こちらの部屋は和洋室のような造りになっています。座椅子なども私たち日本人にとってはとてもなじみ深いですね。
注目はやはり個室温泉風呂、こちらは旅館で一番広い個室風呂になっており、贅沢にスペースを使った個室温泉で時間を気にせず過ごすことができます。
その他、リーズナブルな洋室や、ファミリー向けの和室など用途に合わせて部屋を選ぶことができます。
レストラン
牛・豚・羊の「壽喜焼」
四重渓温泉の名物は「羊肉」。「お食事処」と日本語で書かれた【清泉温泉館】のレストランでも「壽喜焼」(すき焼きの当て字)として地元の味覚を味わうことができますよ。
またこの食事処では「宇治金時」が人気メニュー。なかなか台湾で食べることがない白玉和え抹茶アイスが「日本の味」として台湾の人々に好まれているそうです。
朝食バイキング
朝食はバイキング形式となっています。
その他の施設
フロント・ロビー
フロントには台湾温泉協会認定の「天然温泉」の文字が。また水着なども販売していますので、万が一忘れた場合でも購入が可能です。
日本風庭園(中庭)
清泉温泉旅館はこの中庭を囲むように客室や温泉が建てられています。純和風の日本庭園とは行かないまでも、よく手入れされていて風呂上がりに涼むのにはぴったりです。
源泉「湯の出」
こちらは玄関前にある「湯の出」と書かれた噴水。源泉に手を触れることが可能です。
オーナーの王さんは日本温泉通!
こちら、【清泉温泉館】のオーナーである王樹嘉さんは、現在は南台湾観光大使を務め、さらに台湾温泉協会理事、屏東縣觀光協会元理事長という、台湾温泉界でもかなり偉い方!
そんな王樹嘉オーナーですが、今回Yutty!編集部のインタビューにも快く応えてくださいました。
こちらの温泉の歴史について教えてください。
1892年、日本でいう明治25年に「恒春」に日本軍の陣地ができた時、山に入った「高橋」と言う憲兵が発見し、この地に浴場を作ったのが始まりとされています。その後、高雄の山口という土木技術者が「山口旅館」を造り、これが現在の清泉旅館になります。
その後、高松宮殿下が新婚旅行で利用されるのですね。
そうです。1930年(昭和5年)に日本の高松宮が「蜜月旅行(ハネムーン)」で滞在し、この時日本政府は山口旅館に専用の浴室を造りました。これが現在まで保存している「太子湯」です。戦後は1954年まで蒋介石総統の保養地として使用され、その後民間に開放されました。
現在どのくらいの人が利用されていますか。
観光地の墾丁には年間700万人が訪れます。その中で、四重渓温泉に来るのは70万人、この旅館には5万人程度が滞在します。利用者の8割は台湾人で、残りが中国人、欧米人、そして日本人です。ぜひ日本の人たちにはもっと来ていただきたいですね。
王さんは日本についてどんな印象をお持ちですか?
日本はいい国ですね。何をかくそう、私は日本の温泉が大好きなんです。とくに東北の温泉が好きで、温泉協会の仲間達と何度も日本を訪れています。先日も妻と日本を旅行したばかりです。台湾の多くの人は日本に親しみを持っていますし、ここに来る台湾人はみな「日本の雰囲気が味わえる」と喜んでいます。
どんな人に来て欲しいですか?
もちろん誰でもウェルカムですが、やはり「蜜月旅行」に縁のある旅館ですから、若いカップルや、ご夫婦での利用がおすすめですね。
本日はどうもありがとうございました!
いえいえ、Yutty!さんの記事を見て、若い日本の人たちが来てくれるのを、心待ちにしています。
アクセス
四重渓温泉へは、高雄市内・枋寮駅から共同運行高速バス「墾丁快線」もしくは「墾丁線」に乗り1〜2時間、「車城」で下車。
車城からは屏東客運の墾丁街車(黄線)の路線バスもありますが、宿泊の場合はホテルの送迎車、日帰りの場合はタクシー利用がおすすめです。
詳細情報
施設名 : 四重渓清泉日式温泉館
住所 : 屏東県車城郷温泉村文化路五号[地図]
アクセス : 高雄市内より高速バス2時間。車城より送迎車・タクシー。
営業時間 : 06:00〜23:00 (日帰り入浴)
公式URL : http://www.since100hotspring.com.tw/index-jp.htm(日本語ページ)
電話番号 : 08-882-4120(国際電話)
定休日 : なし
入浴料(露天風呂) : 大人200元、小人150元
シャンプーの有無 : なし
ドライヤーの有無 : あり
レンタルタオルの有無 : あり(宿泊者は無料)
温泉の楽しみ方in台湾
ここで、台湾式の温泉の楽しみ方をちょっとご紹介しましょう。
入浴は水着で!
台湾の共同浴場は、一部の「日式裸湯」を除き多くは水着の混浴です。地域によっては水泳帽の着用も必要になるので、現地の人々を観察して入りましょう。現地の人たちに教えてもらうのも良いでしょう。
入浴はゆっくりと
温泉に入って、お茶を飲んで、また温泉に入って、お茶を飲む・・・この繰り返しを1日かけて行うのが台湾流。せっかくの台湾、アクティブに動くのも良いですが、たまにはゆっくり南国の風に揺られてみるのもいかがですか。
四重渓の周辺観光
石門古戦場跡
日本と台湾の歴史は、けっして平和的なスタートではありませんでした。四重渓温泉のすぐそばにある石門古戦場跡、ここはかつて日本軍と台湾「原住民族」が戦った場所でした。
牡丹社事件と台湾出兵
1871年(明治4年)10月、日本への併合が進められていた琉球王国の宮古島民が海上で遭難し、漂着した台湾で「原住民族」によって虐殺されるという「牡丹社事件」が発生しました。
これに報復するため1875年、世論に急き立てられるかたちで日本軍による討伐隊が編成され、当時清(現在の中国)の植民地であった台湾へ初の海外派兵である「台湾出兵」が行なわれました。
この「台湾出兵」では、台湾「原住民族」と日本軍の双方にたくさんの死傷者が出たと言われています。
時を超えて
その後、台湾が日本の植民地となると、西郷従道によって宮古島民と日本軍を慰霊するための「忠魂碑」がこの四重渓温泉の近くにあった「牡丹社(パイワン族の村の意)」に建立されました。しかし、第二次世界大戦後この「忠魂碑」は台湾の統治者となった中国国民党によって破壊され、新たに慰霊碑が建てられました。
現在この石門古戦場の丘に登ると、日本によって建てられた「忠魂碑」の残骸と、国民党によって建てられた慰霊碑の両方を見ることができます。まるで、日本と中国の複雑な歴史に翻弄された台湾の1シーンをそのまま切り取ったようなこの場所は、「台湾」の歴史について、私たち日本人に多くのことを訴えかけてくるでしょう。
*台湾ではアボリジニのことを正式に「原住民族」と呼び、「先住民」「少数民族」とは呼ばないため、本記事ではこの表記を用いています。
墾丁国家公園
また四重渓温泉の近くには、風光明媚な台湾一のマリンリゾート「墾丁国家公園」があります!墾丁国家公園については詳しくはこちらの記事をご参照ください!
編集後記
俺は台湾といえば、北投温泉とか陽明山温泉とか、北のほうは結構行ってるんやけど、まさか南部にこんな魅力的な“温泉旅館”があるとはなー!
王オーナー、スタッフの方、そして常連のお客さんたち皆さんすごく親切にしてくださって、台湾の方の「暖かさ」を感じました。
まるで常勝のF1チームやな!
記事内の写真では伝わらないかと思いますが、各所の修繕工事が急ピッチで進められていましたね。
本記事の情報は記事掲載時のものであり、現在とは異なっている場合がありますので、予めご了承ください。
大谷優介
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