イケダハヤト×草彅洋平 ♨️四国温泉対談♨️【後編】

高知に移住し、最近は温泉をつくりたいと意気込んでいるイケダハヤトと、サブカル界のイチローと呼ばれ、温泉に関する著書も執筆している草彅洋平が、高知・畑中温泉で対談。

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IT VS サブカル の龍虎激突! ネット界最強の温泉好きは果たしてどちらなのか?

イケダヤハトといえば高知に移住し、ブロガーとして悠々自適の生活を送っていることで有名だが、温泉好きをここ最近ではアピール。
ブログでは高知の温泉紹介の他に、「イケハヤ温泉」を開設したいと意気込んでいる。
一方サブカル界のイチローこと次世代編集者の草彅洋平(東京ピストル)は文豪と温泉の関わりを記した『作家と温泉』(河出書房新書)の著書のほかに、数年前まで「ONSEN」という温泉水が飲めるバーを経営(現在は閉店)。クリエイティブ界一の温泉好きとして知られている。

そんな二人が、ともに共通する話題「温泉」だけでどちらが真に温泉を愛しているのかバトルを開始。
一体どちらが博識なのか、そしてこの記事のニーズはどこにあるのか?

対談の会場はイケダヤハトが大推薦する高知県の畑山温泉のはたやま憩の家で行われた。
後編のスタートです!

>前編はこちら

土佐ジローを喰らう

草彅 畑山温泉のこの景色はやっぱりスゴいですね。露天風呂も作ればいいのに。温泉はお風呂だけでなく景色や食事も大事ですからね。

イケハヤ まあ畑山温泉はとにかく肉ですよ。草彅もあれを一口食べれば分かるはずです。

草彅 またですか(笑)。近著の『まだ東京で消耗してるの? 環境を変えるだけで人生はうまくいく (幻冬舎新書) 』でも土佐ジローを絶賛してましたよね?
お、そろそろ食事の時間ですね。イケハヤのオススメがどれほどのものなのか楽しみですよ。

畑山温泉の温泉に一切触れず、土佐ジローのフルコースに触れているイケハヤ著『まだ東京で消耗してるの?』。
ぷるんぷるんの弾力が目で分かる見たこともないくらいピンク色の鶏肉。これが土佐ジローだ!

草彅 うおおおおお! これは美味そうですね!!!!

イケハヤ 宿の小松圭子さんと土佐ジローを育てているご主人の靖一さんです。いまから焼いてくれますよ。

土佐ジローに天日塩を振って強火でこまめにひっくり返しながら、焼く! ひたすらこまめにひっくり繰り返すのがポイント。
「はたやま夢楽(ムラ)」の小松圭子さん。大学時代に土佐ジローを育てるご主人の靖一さんと出会い、感銘。「押しかけ女房なんです」と笑って話す。
「はたやま夢楽(ムラ)」の小松靖一さん。「土佐ジローといえば小松さん」と呼ばれるくらい、土佐ジローを世に広めた第一人者。

圭子さん 最初はひと通り焼かせてもらっています。じゃないと、ここまで来て、自己流で調理して、マズい食べ方をして帰ってしまってはもったいないですからね(笑)。

草彅 焼き方でかなり変わるもんなんですね?

圭子さん 強火でこまめにクルクル回します。それでは胸肉をどうぞ。

草彅 そんな美味しいんですか?

イケハヤ めっちゃ美味いですよ。

草彅 なんか感動が伝わりませんね。本当に美味しいんすかそれ。

イケハヤ 途切れない旨みがガムみたいです。

草彅 イケハヤの語彙力が物足りないですね、ちっとも美味しそうじゃない…..。

草彅 では、いただきますね……。んー!(終始無言)

イケハヤ (笑)

草彅 これめちゃ美味しいですね! ジューシーだわ。

圭子さん よくテレビで紹介されて、その度に「美味しそうに食べてはいるけど、そこまでではないだろう」といってお客様が来るんですよ。でも結局「なんでこんなに違うんですか?」って目を開いて驚きますね。

草彅 本当ですよ! 後味の濃さがぜんぜん違う。

イケハヤ フフッ、だから言ったでしょう。土佐ジローだからですよ。たまに詐欺みたいな土佐ジローもあるんで気をつけたほうがいいですよ。

草彅 土佐ジロー詐欺!

圭子さん 玉子用に飼ってる人がいて、卵産まなくなったから潰した親鶏も土佐ジローなんです。高知でそういう親鶏を食べて「こんなもんなんだ」と思ってしまう人が多い。うちは肉専門で育ててこの味を実現しているので、ここで食べて、前食べたのとぜんぜん違うという人も多いですね。

イケハヤ 食べ物としてレベルが違いますよ。東京では食べられないでしょう?

草彅 ぐぬう….。イケハヤはいつもこんな美味いもの食べてるのか…。

土佐ジローのハツ(心臓)。土佐ジローは、肉そのものに味があり、脂質と水分が少ないのが特徴。一口目よりも、噛めば、噛むほど深い味わいが口中に広がる。

土佐ジローができるまで30年がかかった

草彅 いや、これは恐れ入ったなあ。高知で何がいちばん好きですか?

イケハヤ 高知は本当に美味いもんいっぱいありますよ。土佐ジローは圧巻ですけど、カツオのたたきももちろん美味しいですし、ジビエも美味しいですね。そう、イノシシが美味しいですよ。イノシシは半分以上脂身なんですが、イノシシの脂がすごく軽くて美味しいんですよ。ヒューンと溶けて、水みたいな。あれは絶品ですね。

草彅 狩猟はやらないんですか?

イケハヤ やりたいですね。免許は罠ならすぐ取れるんで。今年かなあ。でも、取ったところで罠にかかったイノシシを殺す方法がないので。僕が住んでるところはキジがけっこういるんで、鳥撃ちでもやろうかなあ。

草彅 イケハヤが逆にイノシシに殺されそうですよね(笑)。むしろ自らの罠にかかりそう(笑)。

イケハヤ 自分が逆に(笑)

草彅 あまりの土佐ジロー好きだから、その辺の土佐ジロー全部撃ち殺しそうですね。サム・ペキンパーの映画「わらの犬」みたいな感じで。

イケハヤ いや、わざわざ撃たないでしょ(笑) 。釣りとかも行ってないので。川も海もやりたいですね。

草彅 皮うま!

イケハヤ 皮まで旨味がある。

圭子さん なかなか想像できない味なんですよ。

イケハヤ みんな初めは「でも鶏肉でしょ?」って言うから。

草彅 旨みが凝縮されてますよね。

イケハヤ 強烈ですよね。信じらんないくらい。

草彅 土佐ジローというのはどういう品種なんですか?

圭子さん もともと天然記念物の土佐地鶏というのがいて、卵が美味しいけど、天然記念物だから食べちゃダメじゃないですか。そこでロードアイランドレッドっていう在来種とかけあわせて、それぞれの名前から「土佐ジロー」になった。もともと卵を取るために作られた鶏を、うちの夫の靖一さんが肉用鶏として育て方を開発したんですね。どうすれば肉用として美味しく食べれるのか。それを30年近く研究して….

イケハヤ 30年!? スパンがおかしい(笑)

草彅 青森の木村秋則の「奇跡のリンゴ」のような話ですね。その秘密は結局なんだったんですか?

圭子さん 飼い方ですね。産業養鶏だと、いかに安く短期間で太らせるか、になる。でも土佐ジローがどうやったら美味くなるかをずっと靖一さんは追い続けて突き止めたんですね。

草彅 うーん、すごい。イケハヤさん、自分のところでも作ったらいいじゃないですか。

イケハヤ いや〜、やっぱノウハウ難しいですよきっと。

圭子さん 30年やってても、いまだに他の人がやれない。

イケハヤ やっぱそうですよね。でも逆に、高知で他の地域でもできるようになったら、すごいですよね。

草彅 これもめちゃ美味い! これ砂肝?

イケハヤ 全部旨いでしょ。ほかのが食えなくなる。高田馬場あたりの安い焼き鳥とか。

草彅 高田馬場DISっちゃダメですよ!

圭子さん いまの普通の鶏は土の上で飼わなくて、管理のしやすいセメントの上とかで飼ってしまうから、砂を食べることがない。砂肝とは文字通り、鳥が砂を入れるところで、食べたものをすりつぶす器官ですからね。うちのは砂を食べて土を食べて、そこからミネラルを吸収している。
イケハヤ 本当の砂肝。いや〜美味しいわ。

靖一さん 砂肝って筋胃とも呼ばれるんです。それと、今、食べたところが人間で言うと十二指腸のところ。胃袋から腸へ行く出口のところでグッと膨らんでます。ここももともとは捨ててたところを、自分らで焼いて食べたら美味かったから提供するようになったんです。

草彅 飼育は日数どれくらいなんですか?

圭子さん 120から150日。それ以上かけると固くなるし、色味も違ってくる。一代種で土佐地鶏とロードアイランドレッドをかけていて、お父さんの土佐地鶏は1kgくらい、お母さんのロードアイランドレッドは3〜4kgくらいの大きさ。だから、お母さんに似ちゃうと大きくなるんですよ。大きくなる子は120日で出荷できるけど、お父さんに似ちゃうと小さいままになる。玉子も色がバラバラで。お母さんは赤玉の優秀な鳥なんで赤くなるけど、土佐地鶏は白っぽいから。

土佐ジローの卵。色もサイズもバラバラ。生卵でごはんと食べてもゆで卵にしても美味しい。

草彅 もはや対談でもないし、グルメ記事で温泉のメディアではなくなってきましたね(笑)。

高知の日本酒を飲みながら土佐流大宴会の幕開けへ

酒は靖一さんオススメの高知県東部の安芸市にある蔵元「有光酒造」の「安芸虎 純米吟醸 入河内」
五臓六腑に染み渡るとはまさにこのこと。「まろやかな飲み口ですねえ」と日本酒好きの草彅も絶賛。

イケハヤ あ、靖一さんがなんかすごいの持ってきました。これはここでは一番いいお酒です。

靖一さん 次は日本酒でもどうです?

草彅 いただきます! うーん、美味い!!!!!!!!!!!!

圭子さん 安芸市の入河内(にゅうがうち)ってところに集落があるんですけど、ここで吟の夢っていうお米を作ってて、だから全部安芸産です。最近年々おいしくなってるんですよ。

イケハヤ 高知は旨い酒あるんですよ。これはトップクラス。系統が2つあるのかな。辛口でおっさんたちがグビグビ飲むお酒と、こういう大切に飲みたいフルーティーで「旨ぁ……」みたいな。

草彅 イケハヤがこんな酒好きとは知らなかったなあ。

イケハヤ 高知の酒の特徴は、後味がスッと無くなるんですよね。あとに引かないんですよ。そういえば「返杯献杯」はやりましたか?

草彅 え? なんですかそれ??

イケハヤ 高知の儀式ですよ。じゃあ飲んでください。よいしょ!

目下から目上の人に、まずお酒をつぐ。これが「献杯」。これは敬意の挨拶。

つがれた人は、すぐに飲みほし、相手の杯につぐ。これが返杯。つがれた人もすぐに飲み干し、これが繰り返される。

草彅 これをしたら一気飲みなんですか?

イケハヤ 基本、一気飲みですね。飲み干したら自分の器を相手に渡して、注いで。

草彅 なるほど。飲んで、返すと。なんて恐ろしい。一瞬でベロベロです。

イケハヤ だいたいこの一升瓶がなくなるまでやります。

圭子さん 自分のが空いてるときに自分で注ぐのは恥なので、誰かに注いでもらって返してもらう。

草彅 土佐流の酒盛りですね。なんか盛り上がってきましたね!(完全に目が座りながら)

靖一さん 宴会の幹事は自分が一番先に潰れないと恥になるんです。これは高知ではもてなし、お接待ができてないということになる。この飲み方のルーツがどこまで遡るは分からない。

草彅 もともと土佐藩では、武士の身分が「上士」と「下士」の2つあり、上士が重要な役職につき、下士は上士に虐げられていた。これが明治維新がおこるまでの約260年間続いていがみあっていた。身分制度が厳しかったから、酒飲むときだけ、武士も自由になれた。それが高知の酒文化なんだと武田鉄矢原作の『お〜い! 竜馬』に書いてありましたね(真顔で語るがソースはマンガ)。

靖一さん 酒のアテとして、焼きトサカも美味しいですよ。はじめて食べたときは笑いました。刺し身の食感が頭にあって焼くと香ばしい。「何これ!」と思ってニカッと笑います。

草彅 本当だ!

圭子さん 一般のブロイラーにトサカがない理由は分かりますか? 30日から50日だと小学生くらいだから、大人じゃないのでトサカが無いんです。

草彅 なるほど。そうしたことを食事しながら気にしたこともなかったですね。

靖一さん さあ、どうぞおひとつ。

酒好きの宿のご主人・靖一さんに返杯献杯でひたすら飲まされる草彅。高知の人の酒豪ぶりはすごい。

限界集落として生き残りをかける「畑山村」へ

土佐ジローは白子も美味い。白子は弱火で焼くため端っこでゆっくりと火を入れていく。

圭子さん 畑山集落は50年前は800人もいたのに、この50年間で今、50人を切ってます。

草彅 え!? ここ50人もいないの!?

圭子さん 昭和の大合併で、畑山村は安芸市になり、人が激減しました。人の価値観は、とにかく街へ出て行こう、と。

草彅 なるほど。田舎の人が都会を求める気持ちは分かりますが、日本中が同じだから地方都市は国道沿いが大型チェーン店だらけの同じ景色ばかりになってしまいましたよね。

圭子さん でも、靖一さんは、こんなに良いところはないじゃないか、人が暮らす生業が無いなら、創ったら良いじゃないか、って時代の流れに棹さしたんです。皆と一緒に出て行ったら婚期も逃さなかったかも知れないけど(笑)。靖一さんは、集落を守るために一生懸命働いて、ゆずとかシシトウを作り、それだと太刀打ちできなかったのをじゃあ最後はジローにかけて、事業的にも定住できるようにした。ジローに辿り着かなかったら、畑山から出て行ってたでしょうね。でも行政からしたら、そんな我々は、面倒くさいのかも知れないですね。すぐそこにも3世帯住める家がそこにあるのに、安芸市では活用できる仕組みができてないんです。

草彅 おかしいですよね。安芸市から独立しましょう。

土佐ジローと高知について熱く語るイケハヤ。いつか高知県知事候補になる気がするのは本誌だけであろうか…?

イケハヤ ちょっと安芸市はセンスないですよね。

圭子さん 私が嫁に来る前は安芸市はもっと協力的だと思っていたけど、難しい現実がたくさんあったんです。ここは、指定管理者として運営してますけど、日帰り入浴をやってた頃は、売上が月に数万円なのに、重油代だけで15〜30万円かかっても、入浴料金の改正はしてもらえなかった。管理料はゼロです。何度も交渉して日帰り入浴をやめました。宿泊客の方には、温泉を沸かしてますけど、温泉は相変わらず頭痛いです。

イケハヤ ひどい話だな。

靖一さん そんな話は山のようにありますよ。

草彅 この辺りは高知の財産として一級ですよ! 自然も豊かだし、日本にこんな素晴らしい場所があるってことを多くの人が知るべきだと思いますね。

イケハヤ そう思いますぼくも。

圭子さん だから、せめて行政が空き家を賃貸物件に変えてくれれば、移住希望者が来るのではないかと期待しているんです。「民間の力で集落を残すことができるんじゃないか?」っていうのが私たちの夢。いつか自分たちで「畑山村」を作りたいんですね。

草彅 おもしろい。まさに地方からの国づくりですね。

イケハヤ いやねー、未来ありますよね、ここ。

靖一さん 外の人と、どう関わってもらえるのか仕組みを作ろうとしていますね。いろんなことをぼくらが考えていかないと集落はなくなってしまう。いまは土佐ジローがあるけれど、これから先をやっぱり意識していかなければ。

草彅 じゃあ、今日君たちはラッキーだね、ぼくに会えて。

イケハヤ それはよくわかんないけど(笑) 。それにしてもうまい酒だなー。

草彅 楽しいっすねー。生きててよかったなあ。

靖一さん 人ってね、うまいものを食べたら、いわゆる自分の意識のフタも開くし、いろんなものが楽しくなる。いろんなものを吸収しようと。うまいもの+うまい酒を飲むと心開く。

草彅 なんかすごいことさりげなく言ってますよ。ほんとそうだと思います。なんだったんですかね、ぼくが東京に住んでいるのは。お二人に会って今日はいろいろ考えましたね。高知移住しちゃおうかななんて、すぐ洗脳されちゃいますからね….(ムニャムニャ)。

イケハヤ お待ちしていますよ(ニヤリ)。東京にいてもさぞかしツラいことばかりでしょう。早くこっちに来てくださいよ。

靖一さん その辺の感性はやっぱり才能ですよ。

あれ、草彅さん、眠ってしまいましたね?

土佐流の歓待でイケハヤに酒で潰されるという、東京の宴会王にしては珍しい敗戦。対談はこれにて終了したのであった。

イケハヤ フフッ、草彅も意外と酒に弱いんだなあ。でも、高知の素晴らしさを堪能したのでしょう。きっと彼も数年後には高知に住んでいますよ。じゃあ、ぼくはもう少し土佐ジローを頂戴しますか….

構成•文:小安眠平(東京ピストル)
写真:三宅祐介(FLEX)

対談場所:はたやま憩の家(安芸市畑山)

イケダハヤト
1986年神奈川県生まれ。2009年に早稲田大学政治経済学部を卒業後、半導体メーカー大手に就職。と思いきや会社の経営が傾き、11ヶ月でベンチャー企業に転職。ソーシャルメディア活用のコンサルタントとして大企業のウェブマーケティングをサポートし、社会人3年目に独立。会社員生活は色々と辛かったので。2011年からはブロガーとして、高知県を中心にうろうろしています。著書に「年収150万円でぼくらは自由に生きていく(星海社)」「まだ東京で消耗してるの? 環境を変えるだけで人生はうまくいく (幻冬舎新書) 」などがある。

草彅洋平
株式会社東京ピストル代表取締役、編集者。1976年、東京都生まれ。あらゆるネタに対応、きわめて高い打率で人の会話に出塁することからついたあだ名は「トークのイチロー」。ブランディングからプロモーション、広告からメディアまで幅広く手がけるクリエイティブカンパニー「東京ピストル」の代表として、次世代型編集者として活躍中。


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